全体と個

我々は対象物全体をとらえることができるのか?


研究者が、対象物全体を考察しようとする場合によく用いるのが、その構成要素を抜き出し、それを個々に分析した後に、それをまとめて全体を考察するという方法である。これには勿論、「全体は個によって構成されており、そのため全体を個に分割することができる」という考えが前提として存在する。


しかしながら、このような方法で本当に全体を考察しうるのだろうか?
例えば、江戸時代全体を考察しようとした場合に、江戸時代の政治・経済・身分・文化など多くの要素を個々に考察したとしよう。それらを「累積」して江戸時代全体を見渡すことができるだろうか。無論「累積」の方法にもよるのだろうが、多くの場合、江戸政治史・経済史・身分史・文化史に留まり(それだけでも意味は勿論あるのだが)、それで江戸時代全体を考察したことにはならないだろう。
それでは、時代など抽象的な物ではなく、人間の身体を例に挙げてみよう。人間全体を考察するために、人間の構成要素である内臓器官・目・足などを個別に分析して人間全体を把握できるだろうか。無論、人間を知るために大きな手がかりにはなるだろうが、それで人間全体を知ったことにはならないだろう。なぜなら、このような分析では、複数の器官(もしくは身体全体)が集まって初めて機能するものが考察できないからである。


以上の例から、先に挙げた「全体は個によって構成されており、そのため全体を個に分割することができる」という前提には、「但し、全体を無造作に分割した場合、再び全体を構成できない場合がある」という補則が加わるのではないか。すなわち、全体の関係性を活かした上で個を分析するべきと考える。


「言うは易く、行うは難し」で実際どのように個を分割しうるかはわからないが、そのヒントは数理科学の中にあると漠然と妄想している。但し、素人の自分はどのように数理科学の分野に分け入って良いのかわからない。この問題に答えを見いだせるのか否かは、勿論わからないままである。